仮設住宅の談話室では、一枚50円前後の白い模造紙に歌詞を書いたものを提示して、参加者と一緒に歌を歌っています。
この方法は昔から、高齢者や成人を対象とした集団音楽療法の現場では、最もポピュラーなやり方です。
一人ひとりに印刷した歌集を渡す方法もありますが、どちらを選択するかは活動の目的やセラピストの考え方によって変わってきます。
私の用いている方法をここでご紹介します。
1.鉛筆で下書きした上から、毛筆で歌詞を書いていきます。
なぜ毛筆なのか?と良く聞かれますが、油性マジックで書いた文字よりも遠くの方まで見えること、一定の年代以上の方にとって見えやすいことが挙げられます。
私は左利きなので毛筆はとても苦手なのですが、毎回頑張って書いています。字は下手ですが、なるべく時間をかけて丁寧に書いています。
また、歌う節やセンテンスに合わせて行をかえています。見やすさを重視した結果です。
2.漢字の脇にふりがなをふります。
どんなに簡単な漢字でも、必ずひらがなのふりがなをふります。歌う前に参加者と一緒に歌詞の読み合わせをして、読み方の確認も怠りません。ここでの目的は、読み間違いを防ぎ「参加者が恥をかかないようにする」ことです。
人前で大声を出して歌を歌う、という習慣が無い人が集団で音楽活動をするのは、とてもハードルが高い行為です。勇気を振り絞って参加してくださった方が、不用意に人前で恥をかくと二度と足を運んでくれなくなることもあります。
気持ち良く、楽しく活動を行うためには、足元の小石を取り除くように念には念を入れて、下準備を行うことが大切です。
3.作詞者、作曲者、歌集名、発表年を書きいれます。
懐かしい唄をうたって発散、というのも大事な目的ですが、もっと大事なことは歌を媒介として参加者の昔の記憶をよみがえらせて、当時の思い出を語り合ってもらったり、参加者同士の交流を深めることです。
そのきっかけのひとつに、誰が曲を作って誰が歌ったのか。いつ流行したのか。その当時の日本(岩手)ではどんな出来事があったのかを下調べしておき、参加者の記憶の掘り起こしを手伝うのもセラピストの重要な仕事です。
4.模造紙裏側の四辺を布テープで補強します。
歌詞を書いた模造紙は、談話室にあるホワイトボードにマグネットで貼り付けるために、折りたたんだものを広げ、使い終わったら再び折りたたみます。そんな作業を何年も繰り返すうち、紙は破け、疲弊していきます。
少しでも寿命を延ばすために、四辺をこうやって補強しておくと、せっかく時間をかけて丁寧に書いた歌詞も長持ちします。
ホワイトボードの無い談話室の場合(けっこうあります)、窓のカーテンにクリップで挟みますが、テープで補強してあるとクシャっとならないので便利です。
カーテンも無い場合は、最終手段で画鋲を使います。この場合もテープが貼ってあると長持ちします。
5.折り癖をつけて畳みます。
私は縦方向に三つ折り、横方向にも三つ折りで畳みます。
これは、入れるバッグが100円ショップで売っているもので、このサイズだとぴったりだからという理由です。
6.右上に曲名を書きいれ、年代別に丸いシールを貼りつける
仮設住宅には、毎回「童謡・唱歌」「民謡」「流行歌」など300曲を持ち込んでいます。ここからリクエストを受けて取り出すのは、とても大変な作業なので、すぐに見つけられるように分かりやすい位置に曲名を入れ、年代別に色分けしたシールを貼っています。
金色→明治・大正
銀色→昭和戦前
青色→昭和20年代
緑色→昭和30年代
赤色→昭和40年代
桃色→昭和50年代~60年代
黄色→平成
橙色→民謡
※童謡・唱歌は年代で分別しました
カラオケのカタログからすると「たった300曲?」と思う方もいるかと思いますが、模造紙一枚につきたった一曲なので、私となすちゃん二人で談話室に持ち込むのは本当に大変です。しかも、参加者からリクエストを受けて日に日に曲数が増えてきているので、これから益々大変になるでしょう。
なすちゃんからは
「もっと減らそうよ」
「っていうかさらに分別してほしい」
と苦情が出ていますが‥さて、どうなるやら。
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