被災地における音楽療法について 2

災害発生の直後、被災地となった三陸沿岸には国内外から多くの支援が寄せられ、救難活動が開始されました。そこに音楽家の慰問もあったのですが、私がメディアを通じて目撃した光景は被災者の心の慰めになっているようには見えませんでした。というのも、避難所という逃げ場のない空間でぐったりと横たわる彼らに対して、至近距離でのバイオリン演奏をしていたからです。曲は「ふるさと」でした。
これ以降、私にとって「ふるさと」という楽曲は疲れきった被災者を音の膂力で侵襲した曲という良からぬイメージがついてしまい、避難所巡回の最中はなるべく触れないようにと意識が働いてしまった記憶があります。
テレビには演奏者に向かって両手を合わせ無言で感謝する高齢の女性が映しだされていたのが、また私の疑念を大きくしたのでした。もし自分が被災地に行って音楽療法で人々に音楽を届ける際、感謝ではなく安らぎを感じてもらうにはどうしたら良いのか。
実際に私が被災地を訪れ、避難所を巡回できるようになったのは4月16日、震災発生から1ヶ月が経過してからでした。それまで私は主に2つの文献を読み、きたるべき日に備えておきました。
1.サイコロジカル・ファーストエイド
アメリカ同時多発テロの際、複数の支援チームが独自の支援活動を行い、結果的に被災地を混乱させてしまった反省から作成されました。被災者に負担を与えないことを第一義とする非侵襲的支援法で、支援を押しつけず弱さや恐怖心だけでなく強さや適応的な行動にも焦点をあてることが必要な態度とされています。
(1)するべきこと
  「状況、状態の評価」「安全と安心の確保」「共感をもって傾聴」「専門用語は使わず、分かりやすい質問」「当面の問題について話し合い、対処ができるようにする」「被災者のもつ力を忘れない」
(2)してはいけないこと
  「トラウマ体験について勝手に決め付ける」「心理的反応を「症状」や「診断」としてのみとらえる」「被災者に支援を押しつける」
2.兵庫教育大学・冨永良喜教授(臨床心理学)による災害後の心理援助三原則
1)ケアは継続できる人が行うこと
継続してケアできない心理援助者(グループ)は、被災者へ直接接触してはいけません。接触するときは、現地の援助者(心理士・教師など)と一緒にすること。
2)感情表現は害になることも                           恐怖の感情表現を促すこと(地震の絵や作文を描かせる等)は安全感のない空間(継続してケアできない人、災害直後)では被災者に二次被害を与えます(Debriefing の有効性は実証されていませんし二次被害を与えると強く警告している論文もあります)。
3)アフターフォローのないアンケートは禁止
トラウマのアンケート(IES-R やPTSR-edなど)をアンケートのみ実施することは、被災者に二次被害を与えます。必ず、継続して関与できる人が、トラウマと喪失の心理教育を同時に実施してください。
※このサイトを参考に転載いたしました
そして自分なりに、被災地にいる最中の言動・心がけについてもいくつか決まり事を作りました。
1)音楽を拒否する人が一人でもいれば中止する
2)活動時間を超過して長居しない
3)支援物資を受け取らない
4)被災者の目前で記録をとる・被災風景を撮影することはしない
5)ネームホルダーなどで身分を証明する(不審者が多かったため)

コメント

  1. シロツメクサ より:

    今月、遠野に行くのですが、ネームホルダーを持っていくとよいと言うのは、とても参考になりました。ただ、肩書きは職業を書いても、職業で行くのではないので、書き方がちょっと難しいですね。

  2. 智田邦徳 より:

    シロツメクサさん
    コメントありがとうございます!
    ネームホルダーがとても役立ったなあ、と感じたのは震災からすぐの、避難所巡回時期でした。何故かというと、あの頃は混乱に乗じてアヤシゲな人も自由に出入りしていたので、トラブル防止の意味で自分の身分を照明する必要があったのです
    今は特にそんなヤカラはいない(と思います)ので、ボランティアさんは仲介した組織のゼッケンや上着をきているようです。遠野はジンギスカンがオススメですよ~あんべという店に是非いってみてください

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