被災地における音楽療法について 1

ここ数日、岩手県を含む東北地方は長雨が続き、川の氾濫や土砂災害などがあちこちでおこっているようです。我々も今日これから峠を通って沿岸へ向かうので、十分気をつけながら移動したいと思いますが、いつなんどき災害が我が身に降り掛かってくるかわかりません。いつも身構えつつ暮らしていくのは大変ですが、いざという時にどうすれば良いのかという知識と、自分なりの対策を普段から講じているに越したことはありませんね。
東日本大震災の発生後、私が最初に被災地となった三陸沿岸を訪れて被災した皆さんを対象に音楽療法を行なったのは2011年4月16日のことでした。詳しくは過去のブログ記事をご覧いただければと思いますが、震災から一ヶ月というまだ間もないこの時期、被災した皆さんの心はどんな状態だったのでしょうか。
被災した直後に見られる反応は、これら3つに分類されるそうです。
1.適応的反応、そして回復へ
2.非常事態に遭遇した際の正常な反応、一過性のストレス反応(うつ、不安状態)
ここで言う「うつ」は、悲しみに遭遇した人にとっての「悲嘆反応」として出現するごくあたりまえに見られる状態で、発生から二ヶ月の間の「うつ」「色々なことへの興味の喪失」「食欲減退や不眠」など身体症状を含むこれらの反応は病気と見なさないようです。
3.精神疾患など
悲嘆反応としての「うつ」状態から深刻な「うつ病」に移行するケースもあります。災害後にPTSD(外傷性ストレス症候群)や適応障害、不安障害、物質(アルコールや薬物)依存などの症状が出ることもあります。
大事な家族、友人、同じコミュニティに属していた顔見知りの人々を災害で喪失する、死別するといった体験は心の痛み、苦しみを伴い、悲嘆反応を生じさせます。それは感情だけにとどまらず、認知、行動、身体生理的なところにまで変化をもたらすほどです。多くの人々は悲嘆反応を通過すると、それら大事な人の死を受け入れて回復する力を発揮するようになりますが、一部の人々は複雑性悲嘆・遷延性悲嘆障害と云われる状態を生じさせて、回復過程が滞ってしまうことがあるようです。
「半年以上続く強い火痛感と思慕」「現実(喪失)を受け止められない」「亡くなった人に関することへの没頭」「喪失を思い出させること、場所の回避」「自責と後悔、強い怒り」「日常生活の停滞」「社会的ひきこもり」
(以上、「災害時とその後の心の反応―総論」飛鳥井望 自殺予防と危険介入第32巻1号を参考にしました)
幸い私がお会いした被災者には、こういった重篤な状態の方が見当たりませんでしたが、やはりアルコールの問題、引きこもりの問題はその後あちこちで耳にしました。全国の自治体から派遣されてきた心のケアチームや、地域包括支援センターの保健師さんたちによる懸命な働きかけ、取り組みが実施されていたのもこの時期です。
震災から二年半近くが経過した今でも、やはり音楽療法の最中に震災の体験を思い出し(もしくは故人をしのんで)涙する方が時々いらっしゃいます。仮設住宅の部屋にこもって、談話室で開催されているイベントや自治会に顔を出さない方もいるそうです。悲しみの癒える時間は個人差があります。引き続き彼らへのケアが必要です。

コメント

  1. ハナレン より:

    はじめまして。
    西原さんのブログを読んで色々な話の点が線で繋がってとても驚いて感動しています。
    私は、智田先生が今日訪問された仮設に家族4人で住んでいます。
    智田先生の話は母から何度も聞いていました。
    いつもとても楽しみにしていて、「今日はこんな歌を唄ってくれた」とか「あの曲もリクエストしたかった」とか「今度はこの曲をリクエストしよう」とか「でも先生は沢山の仮設を廻っているから次はいつになるかなぁ」とか「手紙を書いたら返事をくれた」とか。今日は、「先生に便箋をもらった」と、嬉しそうに話していました。
    沢山の力をありがとうございます。

  2. 智田邦徳 より:

    ハナレンさん。
    コメントありがとうございます!!
    お母様、一昨日も来てくださいました!!
    お会いするのがいつも楽しみです。
    私の方こそ、力をいただいてますよ。
    「リクエストあったらこの葉書で送ってください」
    と皆さんにお渡しをした際、お一人だけ返事をくださったのがとても嬉しかったです。
    仮設住宅で大変な毎日をお過ごしの皆さんが、とても明るく楽しそうに歌ってくださる姿は、いつも心に響きます。これから先何年も、私は私のできることを地道に続けていきたいと思っています、どうぞこれからもよろしくお願いします。

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